759 / 1096
第759話 夏日 47-2
「案外待ってるとかかってこないこともあるよな」
決まった時間にかかってくる訳ではないようだから、かかってくるかもしれないし、こないかもしれない。ただ待つと言うのは意外と身を持て余すものだ。藤堂もすっきりしなくて居心地が悪いのだろう。眉間にしわが寄っている。
電話が鳴れば藤堂は母親と会話しなくてはならなくなり、気分が重たくなる。だけれどかかってこないとなれば気を揉んでしまいずっと落ち着かない。ではどちらがマシだろうかと考えてみるが、あまりどちらも大差がない気がした。
ならばいっそのこと電話などかかってこなければいいと思うのだけれど、そう言う訳にもいかないのが現実だ。このまま悶々と布団に入ってもゆっくり睡眠を取れない気がする。しかしどちらの選択肢もこちらに委ねられていないので解決策もなく、これは僕がいくら考えても堂々巡りだと思い考えるのをやめた。
「ここの夜道は歩くと怖そう」
「確かに、夜は男でも怖いかもしれないな。この辺りは家も密集してないし、外灯が少ないからね。それに山から降りてきたクマが出ることもあるしね」
「クマですか? うーん、街中に慣れるとこういう暗さはないなぁ」
のんびりとした三島と保さんの会話を聞きながら、周りには気づかれないよう小さく息を吐いて、僕はただまっすぐに前を見つめる。車のライトに照らされた道を眺めながら、ふと昨日の晩に藤堂が言っていたことを思い出した。執着と支配――愛情。
どうにかしてを養子に出したいと強行する母親の態度で、自分には執着がない、愛情を持っていないと藤堂は感じているのかもしれない。けれど僕から見れば充分に、いや異常なまでに藤堂の母親は藤堂自身に執着しているように感じられる。ひどく歪んではいるがそこに藤堂の母親なりの愛情があり、なにか意図があって自分の敷いたレールを強行しているのだと思う。
ともだちにシェアしよう!