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第761話 夏日 47-4

「女性陣はもう家に入ったよ」  のんびりした保さんの声音に気づいて車内を見回せば、僕を心配げに見ていたのは藤堂だけではなかったようだ。運転席の保さんや後部座席の三島に視線を向けると、彼らもまた安堵したような笑みを浮かべた。 「家に着いたし、やっと保さんも飲めますね」 「あ、うん。実はちょっと楽しみにしてた」  みんなで車を降りて先を歩く保さんの背中に声をかければ、振り返った彼は至極嬉しそうに微笑んだ。佳奈姉の酒豪さばかり目につくけれど、車の運転がなければ保さんも結構な量を飲むほうだ。  僕もあと少し飲めたなら、藤堂が成人した時に一緒に楽しめるのになと思いつつ、先を歩く三人の背中を追った。 「もう晩ご飯は頼んじゃった」  リビングに着くなり、出前のメニューをまとめたファイルを振る佳奈姉の声に迎えられた。僕がぼんやりしているあいだに行動の早い姉たちは即決していたようだ。まあとは言え、時間も遅いので早く頼まなければ出前も終わってしまう時刻だ。文句は言えない。 「保さん一日お疲れ様。こっちでゆっくり飲んでね」  リビングに僕らがやってきたのと同時に席を立っていた母が、冷蔵庫から冷えたビールを持ってきた。それに恐縮しながらもリビングのソファに腰かけた保さんは、グラスに注がれたビールを一気に飲み干した。そしてそれを隣で見ていた詩織姉は小さく笑い、空になった保さんのグラスにビールをなみなみと注いだ。 「弥彦、優哉! 見て見て、おばさまたちがこれを買ってくれたの。出前が届くまでこれやろう」  そんな中で片平がこちらを向いて、飛び上がるようにしてなにかを頭の上に掲げた。 「花火?」  透明な袋に入ったそれは、様々な種類の手持ち花火だ。大きさから見てもかなりたくさん入っている。家で花火だなんて何年ぶりだろう。そんなことを思い目を瞬かせてしまった。

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