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第764話 夏日 48-3

 火が点いた瞬間に藤堂が呟いた言葉で、僕の肩は大きく跳ね上がった。小さな音を立てて燃え始めた花火に心臓がうるさいほどに鼓動を早めていく。笑みを浮かべている藤堂の横顔を見つめていると、その顔がふいにこちらを向いた。 「ぼんやりしてるとすぐに落ちちゃいますよ」 「え、あ、急に、変なこと言うからだろ」  ふっと目を細めて柔らかく笑う藤堂の視線に、落ち着かない心臓はますます早まっていく。口から出た文句もなぜか最後のほうは尻すぼみになってしまった。  そんなやり取りをしているあいだにもちりちりと導火線が短くなった線香花火は、小さな火花を散らし始める。  そんな小さな火花は花火の名の如く綺麗な花のようで、見ていると少しだけ気持ちが落ち着いた。けれどまだ気が抜けなくてついまじまじと花火を見つめてしまう。僕のそんな心境を予想しているだろう藤堂は口元に笑みを浮かべたままだ。 「俺いつも線香花火はすぐに落としちゃうほうなんですけど、いまは落としたくないな」 「そう言うやつに限って落とすんだぞ」 「佐樹さんもですよ。そんなこと言ってると落としちゃいますよ」  小さな笑い声を上げて笑う藤堂があまりにも楽しそうで、思わず肩を寄せたくなってしまう。けれどいま動いたら重たげになってきた火薬が間違いなく落ちてしまう。むっと口を引き結び火花を見つめたが、ふとどちらが落ちてもいいような気にもなってきた。それよりも二人の手が並ぶ、ほんのわずかな距離を埋めてしまいたい。 「優哉!」  そう思った瞬間、片平の声が響き顔を上げた僕たちの線香花火は両方とも火種を落とした。ほぼ同時に顔を上げてしまったので、どちらが先に落ちたかはわからない。 「電話」  どうやら三島のほうに電話がかかってきたようで、藤堂は立ち上がるとそちらへと向かっていった。

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