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第765話 夏日 48-4

 電話を替わり話しているようだが小声で話しているのか、声はこちらまでは届かない。けれどこうして一緒にいるあいだに電話に出ることができてよかった。  そう思いながら手にした線香花火の残骸を見つめるが、なんとなく胸に引っかかりが残っていた。それがなんなのか、わからないけれどすっきりとしない感情。 「まだこれで全部が解決したわけじゃない、のか」  くすぶる感情に思考を巡らし、ぽつりと呟く。確かにいまの証明はかたちだけできたけれど、これで安心というわけではない。まだこれからも同じことは続いていく。引っかかった感情――それはいつまで続くのだろう、という想い。  藤堂が卒業するまで? それとも藤堂の両親が離婚するまで? 答えが見つからなくてぼんやりと焼けた花火を見つめてしまう。  それまであと何回、藤堂は辛い思いをしなければならないのだろう。ふと電話口から聞こえた泣き出しそうな藤堂の声を思い出した。僕は傷ついた藤堂をしっかりと支えてあげられるだろうか。苦しみに気づいてあげられるだろうか。そんな不安がよぎり胸が詰まる。 「佐樹さん」  人の近づいてきた気配に顔を上げると、藤堂が先ほどと変わらない優しい笑みを浮かべて僕の名前を呼んだ。その笑みをじっと見つめて、僕はとっさに腕を伸ばして藤堂を抱き寄せた。そしてそっと両頬に手を添えると、驚いている藤堂の唇にやんわりと口づける。  いまどうしても触れたくて仕方がなかった。なぜだかわからないけれど、藤堂のぬくもりを触れて確かめたかったのだ。僕が不安になってはいけないと、そう思ったはずなのに心が揺れる。  この時の不安がのちに大きな波紋を広げることを、僕はまだ知らない――。 [夏日/end]

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