766 / 1096
第766話 疑惑 1-1
夏休みが終わり、学校が通常通りになると色んなことが動き出す。特に二学期は行事ごとが多いので、意外と時間はあっという間に過ぎていくだろう。
けれど今日は学校ではなく僕は別の場所へ向かっていた。最寄り駅から三つ先の駅で乗り換え三十分ほどで下車。そしてそこから徒歩で二十分もしくは車で五分と少しくらいかかる場所だ。目的の駅に着き、まずは待ち合わせている人物がすでに着いているかどうか視線を巡らせ探す。するとその二人はすぐに視界に入った。一人でも目立つけれど、二人一緒だとなおさら目立つ。休日の駅前、そこで二人は通り過ぎる人たちの視線を集めて振り返らせていた。
あまりにも目立っているので、なんだかそこに踏み込むのに勇気がいる気がしたが、僕に気づいた二人が振り返り満面の笑みを浮かべる。
「佐樹さん」
「センセ」
眩しいくらいの笑顔に僕はぎこちなく片手を上げて応えた。二人が振り返った瞬間に彼らに向けられていた視線がこちらに集中した気がする。その居心地の悪さは半端ではない。そんな視線をものともせずにいる二人は感覚が麻痺しているとしか思えない。
「藤堂、峰岸、待たせたな」
こちらを見ている藤堂と峰岸に向かい駆け寄ると、周りの視線があちこちから背中などに注がれているのがわかり、痛覚など働くはずがないのだがなんだかそれは痛いほどだと思った。
「大丈夫ですよ。約束の時間までまだありますから」
「俺もさっき着いたばっかり」
優しく笑った藤堂と、口の端を上げて笑った峰岸の表情を見てほっと胸を撫で下ろし、僕は腕時計に視線を落とした。時刻は九時五十分になったところだ。今日こうして藤堂や峰岸と一緒に待ち合わせている目的は、渉さんのところに持ち込まれた企画に二人を起用したいと言っていたあの約束のためで、予定は藤堂の休みに合わせて九月の最初の日曜日ということに決まった。
ここから目的の場所までバスは出ていないらしく、手段は徒歩になる。けれど十時には迎えが来るという話だった。
ともだちにシェアしよう!