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第768話 疑惑 1-3
以前に渉さんから戸塚さんの話は聞いている。渉さんが大学時代、展覧会に出品した写真を見て声をかけてくれた人がいて、その人と出会ったおかげでいまがあると言っても過言ではないのだと話していた。
僕が渉さんの存在を知ったのは、その出会いがあったしばらくあとに出版された写真集だ。その写真集を初めて手にした時はとても感動した。その感覚や感情はいまでも覚えている。そしてその感動を与えてくれたのが、元をたどれば戸塚さんであるわけだ。だからその人に会えた喜びで僕の気持ちも自然と高まってしまうのだ。
「そんなにキラキラした目で見られると照れちゃうな。僕がすごいわけじゃなくて月島くんの元の才能ですよ」
「けど戸塚さんがそこで渉さんを見つけてくれなかったら、いまは違ってたかもしれない。そう思うとすごいなって思います」
「そっか、そう言ってもらえると嬉しいな。ありがとう」
黒目がちな瞳を細めて笑う戸塚さんは少し照れくさそうにはにかむ。
「センセと渉は随分長いのか?」
「ん? ああ、そうだな」
ふいに後ろからかけられた声に振り向くと、興味深そうな顔で峰岸がこちらを見ている。その視線に僕は小さく頷き返し、少し考えるように遠くを見た。そしてしばらく頭の中で記憶を巻き戻して、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「僕が最初に渉さんに会ったのは高校三年の冬頃かな。その前からファンだったんだけど、友達の紹介で知り合ったんだ。もう十五年くらいになるかな? でも渉さん、あの頃は大学生だったけど、会った頃とあんまり変わってない」
「確かに、月島くんはあんまり印象が変わらないね」
僕の言葉に戸塚さんがふっと息を吐くように笑った。でも思わず笑ってしまいたくなる気持ちはよくわかる。歳と共に落ち着きや風格は変わっているけれど、渉さんの印象は会った頃と全然変わっていない。自分はどんどんと歳を取るのに、あまりの変化のなさに不思議な気分になることもある。
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