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第770話 疑惑 2-1
建物内に入る時も受付に守衛がいたが、なにやら戸塚さんが通行パスらしきものを見せるとすんなりその前を通り過ぎることができた。
長い廊下を抜けてエレベーターや階段を何度か上がり下りしていくと、また廊下が続いた。そこは両サイドに扉がいくつもある廊下だった。扉の横に名前が色々書かれているので楽屋というやつだろうか。
「ここが今日二人に使ってもらう部屋だよ」
扉を押し開いて振り返った戸塚さんが、後ろを黙って歩いていた藤堂と峰岸に視線を向けて笑みを浮かべる。覗き込んだそこはよくテレビやドラマなどで見るような雰囲気だった。室内はそれほど広さはないが、壁際に並んだ化粧台や服がたくさんかけられたキャスターの付いたラック、大きな机に飲み物や弁当まで置いてあり、なんだかすごくそれっぽい。
藤堂や峰岸も物珍しそうな顔をして室内を見回していた。
「これからスタイリストさんとメイクさんが入るので、二人には準備にとりかかってもらうね。予定としてはメイクやヘアメイク、フィッティングで午前中終わっちゃうかもしれないな。昼食挟んで午後から撮影本番かな」
「そんなに時間が準備かかるものなんですか」
さらりと告げられた予定に驚いてしまう。そう簡単なものではないと思っていたけれど、現実はそれよりも予想をさらに大きく超えていった。
「うん、今回は特にね。もともとは十人くらい使ってやる企画だったから、二人に着てもらう服は多いかな。衣装合わせもしてないし、撮影が始まってもまた髪型を変えたりメイクを直したりとか、色々時間はかかるよ」
「そうなんですか」
なんだか僕の安易な考えと興味で藤堂と峰岸に大変なことを押し付けてしまったなと、今更だが申し訳ない気持ちになってしまう。そろりと二人に視線を向けると、僕の心情を察しているのか、峰岸は肩をすくめて笑い、藤堂は小さく首を傾げて微笑み返してくれた。
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