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第772話 疑惑 2-3

「今回の撮影って結構大変なんですか?」  廊下を抜けてスタジオのほうへ向かっていると、あちこちに人がたくさんいて、忙しそうに声をかけ合ったり、様々な作業をしたりしている。それがすべて今回の撮影に関わるのかはわからなかったけれど、先ほどから少し急いでいる雰囲気の戸塚さんに思わず声をかけてしまった。 「うん、実はかなりタイト。なにせ月島くんが予定をねじ込んできたからね」 「えっ!」 「もともと月島くんは、予定が一年分は大まかに組まれてるんだよね。年契約だから」  思わず戸塚さんの言葉に上擦った声が出てしまった。今回もだけれど戸塚さんの話の通りなら、先月の部活動も予定をねじ込んだということになる。いつでもいいと渉さんは笑って簡単に言っていたけれど、実際はそんなことになっていたのかと、知れば知るほど申し訳なさが込み上がってくる。 「でもある程度は休みとか予定をねじ込まれても大丈夫なようにしてるから、気にしなくていいよ。このあいだの休みは楽しかったみたいで次の日は機嫌よかったしね。僕らにとっては好都合だったよ」  僕の慌てぶりに気持ちを察してくれたのか、戸塚さんはゆるく笑い肩をすくめる。それにしても長く渉さんとは付き合いがあるけれど、知らないことが多いなと改めて感じた。あまり私生活や仕事のことを多くは語らない人だったし、僕も深くは追求して聞こうとは思わなかったせいかもしれない。それは興味がないわけでなく、必要ならば話してくれるだろうという信頼のような気持ちだ。 「あの、普段の渉さんって」 「うん? 気になる? 僕も佐樹さんが見ている月島くんが気になってるよ」 「え?」  ふふっと小さく笑った戸塚さんに首を傾げると、ますます笑みを深くして見つめられる。そんなに仕事場での渉さんは僕の知っている渉さんとは違うのだろうかと、頭の中に疑問符が飛び交った。

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