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第773話 疑惑 2-4

 しかし考えたところで戸塚さんが浮かべた笑みの意味がわかるわけもなく、曖昧に笑い返したらなにかまた機嫌よさげな様子で戸塚さんは微笑みを浮かべた。  楽屋からしばらく歩いた先は、なにかの裏手に当たるのかベニヤ板や木枠で組まれた骨組みが見えた。そしてその隙間にある細い通路を抜けていくと、薄暗い場所から急に明るい場所へと出る。 「ここが今回の撮影場所だよ」  一瞬明るさに目がくらんだが、慣れると大した明るさではなく、戸塚さんが腕を伸ばし指し示してくれた場所が目の前に広がった。そして裏側から見えていたのは大掛かりな背景のセットだというのがわかった。そこには思っていたよりもたくさんの人たちがいて、僕は見慣れない世界に呆然としてしまう。  撮影に使われるのだろう照明や機材が点在し、その傍では色々な人たちが段取りなどを確認しているのか、書類を片手に顔を突き合わせている。そして撮影場所から少し離れたところに、パソコンのディスプレイらしきものが並んでいる机があった。 「月島くん」  そこには見慣れた後ろ姿もあり、戸塚さんがその背中に向かって声をかける。するとなにか話をしていたその人はゆっくりと振り返った。 「あ、佐樹ちゃん!」  そして僕を見るなり椅子から立ち上がると、まっすぐに駆け寄ってきた。両腕を広げて満面の笑みでいつものように抱きついてきた身体を抱きとめれば、ぎゅっと強く抱きしめられて頬を顔にすり寄せられる。 「あ、えっと……渉さん今日はありがとう」 「それはこっちの台詞だよ。二人を落としてくれた佐樹ちゃんに感謝」  僕の両頬に軽く口づけ、肩に手を置いたまま腕を伸ばし、僕の顔を覗き込むようにしてにこやかに笑う渉さんはいつも通りだ。けれど僕に勢いよく渉さんが抱きついた瞬間、周りの空気が揺れたのは鈍い僕でもすぐさま気がついた。そしてまた集まる人の視線、それは本日二度目の感覚だ。

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