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第774話 疑惑 3-1

 熱烈な歓迎を渉さんから受けた僕は、満面の笑みに曖昧な笑みしか返せず困っていた。それでも目の前の笑顔は変わらずにこやかで、僕がここにいることをとても喜んでくれているのを感じる。しかし周りの反応は大半が驚きに目を見開いている。固まったまま動かない人もいた。以前に展示場で偶然会った時はもっと周りの人も悟ったような反応だったけれど、今回は随分と反応に違いがある。 「渉さん、みんな見てる」 「うん、大丈夫」  なんと言ったらいいわからなくて、遠まわしに言ってみたけれど、渉さんはまったく気にした様子もなくずっと機嫌のよさげな顔で笑っている。その顔を見ていると、肩に触れる手やまっすぐと見つめてくる視線を振り払ってしまおうという気は起きない。むしろ本当に嬉しそうに笑うその姿に、つい甘やかしてあげたい衝動に駆られてしまう。渉さんは普段あまり僕に物ごとを押し付けてくるタイプでもないし、嫌だということは絶対にしない人だ。そんな優しい彼が無邪気に笑っているのを見て、甘くならずにいられる人はどれほどいるだろうか。 「撮影までまだ時間があるからこっちおいでよ」 「あ、え、ああ」  ふいに手を繋がれて驚いていると、渉さんは柔らかい笑みを浮かべて僕を先ほどまでいた場所へと促す。するとそこにいた人たちは気を遣ってなのか、その場を離れていった。 「ここでね、撮った写真をチェックしていくんだよ。使えないものとかもここでチェック入れたりする、モニターチェックってやつだね。いまはデジタルだからその場ですぐ確認できるのが時短になっていいよ」  パソコンのモニターにはカメラチェックを行ったのであろう数枚の写真が並んでいた。それをマウスで操作して見せてくれる。僕はそれをまじまじと見つめてしまった。画面の中の風景は衣装を持ち、仮で立っているスタッフさんと目の前にあるセットだ。けれどもなんだか写真の中に収められたそれはもっとリアルで、それが作られたセットであることが信じられなくなりそうだ。

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