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第775話 疑惑 3-2
もちろんメインは衣装なわけだから着眼点が違うが、これで藤堂や峰岸が衣装を着てカメラの前に立ったら、いったいどんなものができ上がるのだろうかといまから胸がわくわくする。
「あとで佐樹ちゃんにも撮らせてあげようか」
「え! いや、いい。こんなところで撮るなんて恐れ多くて恥ずかしい」
「ふふ、可愛い」
急な渉さんの申し出に慌てて僕は首を横に振った。ど素人がこんな立派なスタジオでカメラを持つなんておこがましい。冗談でも心臓に悪い話だが、渉さんの言葉はおそらく冗談などではないだろう。僕の慌てた様子を見て渉さんは小さく声を上げて笑っている。
「それにしても、こういう撮影ってみんなこんな大掛かりなセットで撮ることが多いのか?」
視線を巡らす一角は本物の室内のような壁紙が貼られ、おしゃれな家具に螺旋階段までついたどこかの一室のようなセットだ。
「うーん、今回はセットになったけど、一軒家とかが撮影スタジオみたいになってるところもあるよ。俺はほとんど外のロケはないから、外で撮るとしたら海外に出ちゃうかな」
「へえ、そうなのか」
そういえば渉さんは仕事で海外へ行くことが昔から多かったような気がする。人前に顔出しをしないから、国内での外ロケがないのだろうか。そんなことを思いながら、スタジオ内に視線を巡らせていると、足音が響きスタッフらしき人が駆け込んできた。その場にいるみんなにつられてそちらへ視線を向けると、年若い青年が渉さんの方を向いて頭を下げる。
「あと五十分くらいで初回本番いけるそうです」
「ああ、やっぱり。りょーかい、じゃあちょっとみんなスピード上げてくれる」
スタジオに駆け込んできた青年と渉さんの言葉に、周りの人たちが一斉に動き始めた。そんな中、しばらくして青年の言葉を飲み込んだ僕は思わず首を傾げてしまう。
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