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第776話 疑惑 3-3

 十分くらい前に戸塚さんが午前中いっぱいは準備に時間がかかると言っていた気がしていたが、それが早まったということだろうか。それにしても随分と早い気がする。けれど渉さんはやっぱり、と言っていたのである程度の予測はしていたのだろう。 「もっと時間かかるって聞いたけど、早いんだな」 「まあ、あの三人ならこんなもんだよ」  肩をすくめた渉さんは目を細めて満面の笑みを浮かべた。その自信に満ちた表情には相手への信頼がうかがえる。戸塚さんがお墨付きと言っていたのも伊達ではないのだと改めて実感した。 「信頼してるんだ」 「宮原と桜井は特に長いこと仕事一緒にしてるからね。どこまでやれるかはわかっているつもりだよ」 「なんかすごいな、そういうの」  相手に信頼を置くというのは意外と簡単ではない。それに値するだけの努力をし、応えていく、そして積み重ねた時間や経験が信頼となっていく。それはなんだかすごく素晴らしくて格好いいことだと思う。もちろんその努力は先ほど会った三人だけではないだろう。急なスケジュール変更に誰一人として嫌な顔を見せていない。それどころかやる気にさえ満ちている。おそらくここにいる全員が渉さんの背中を追いかけている、そんな気がした。  どんどんと周りが進行していく中、渉さんは相変わらず僕にスタジオ内のあちこちを見せてくれた。けれど時間が過ぎていくと作業を進行しているみんなが渉さんを必要としているのを感じ始める。 「渉さん、そろそろ仕事の邪魔になると悪いから、後ろから見学させてもらうよ」  どうしたものかと思い、とりあえず渉さんを仕事に戻そうと試みた。しかしそれと共に目の前の顔が不服そうに歪んだ。子供が駄々をこねる寸前のような顔をしている。そんな表情に苦笑すれば、渉さんの手が僕の両手を掴む。 「後ろと言わずに傍にいてくれればいいのに」 「それだと周りの人の迷惑にもなるし、僕も気を遣うし」

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