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第779話 疑惑 4-2

 特に渉さんは全国的にも名前が売れている写真家だ。その名前だけで売り上げが左右される仕事はきっと僕が想像するよりもずっとたくさんあるに違いない。 「準備オッケイです! モデルさん入ります」  しばらく戸塚さんと並びながらじっと渉さんの仕事ぶりを見ていると、ふいに大きな声がスタジオ中に響いた。そして十数人はいるスタジオの視線が一斉に入り口のほうへと向けられる。そこには色々な感情が溢れているように見えた。でも一番強い感情は期待だろうか。そしてそんな期待はスタジオに入ってきた二人を目に留めて大きく膨らみ、そして弾けた。スタジオ中にざわめきが広がる。けれどそのざわめきは室内に響いた靴音と共にふいに途切れた。  入り口近くで二人が入ってくるのを見ていた僕も、瞬きするのを忘れるくらいじっと見つめてしまった。 「今回入っていただくことになった優哉くんと一真くんです」  後ろから一緒に入ってきた宮原くんの声に一瞬にしてみんなが我に返る。軽く頭を下げた藤堂と峰岸の姿に周りから拍手が起こり、再び辺りはざわめきに包まれた。  緊張のためか少し居心地の悪そうな藤堂と、どこかもう開き直っていそうな雰囲気の峰岸。対照的な二人ではあるけれど、とにかく二人の姿は目を引いた。もともとが街中にただ立っているだけでも人目を引くというのに、プロの手でさらに磨き上げられて眩しいほどだ。  峰岸は普段から華やかさがあるが、いまは藤堂も峰岸とは違った華やかさを身にまとっていた。いつもの眼鏡はなく、素顔がよく見える。そして私服の時でもそれほど大きく手を加えていない髪は分け目を変え、サイドに流し頬に緩くかかっていた。ダークブルーのスーツと相まって、それはいつも見ている藤堂よりぐっと大人っぽい仕上がりだ。

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