780 / 1096
第780話 疑惑 4-3
一度目に留めたらもう視線が離せず、やたら早くなった胸の動悸がおさまらない。それなのにふっと視線が流れてそれがこちらを振り返った。目が合った瞬間、大きく心臓が跳ね上がり、止まってしまったかと思うほど息を飲んだ。そしてどうしたらいいかわからなくなって、思わず俯いてしまった。
「大丈夫?」
「え! あ、はい」
俯いたまま気を紛らわすために両手を握りしめていたら、ふいに横から戸塚さんに顔を覗きこまれた。突然目の前に現れた顔に驚いて僕は大げさなほど顔を跳ね上げる。その顔は先ほどから熱いくらいで、紅潮しているのが自分でもわかった。挙動不審な僕を見る戸塚さんは、視線を和らげて優しく微笑んでいる。
「優哉くん格好いいよね。一真くんはもとから雰囲気も見た目も華やかで目につくけど、優哉くんはちょっと影がある感じが大人っぽくて色気がある。二人が並ぶと光と影って感じだね」
「は、はい」
変な緊張で声が上擦る。けれどそんな僕に対して戸塚さんはまったく怪訝な顔はせずに先ほどと同じように微笑んでいた。
「ああ、ごめんね。色々と事前情報は入ってるんだよね。佐樹さんと優哉くんのこととか、月島くんの気持ちとか、あと今日はいないけど瀬名くんのこととかね」
「え?」
よほど僕が不思議そうな顔をしていたのだろう。ほんの少し困ったような顔をして戸塚さんは微笑みのネタばらしをする。それを聞いて僕は一瞬目を瞬かせ固まってしまった。そしてそんなにここはオープンな世界なのだろうかと大いに混乱する。
しかしあたふたと周りを見渡したら、戸塚さんはなんだか微笑ましそうに僕を見た。
「あ、大丈夫だよ。みんな知ってるとかいうわけじゃなくて、僕が知ってるだけだから」
「じょ、情報源は?」
ともだちにシェアしよう!