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第781話 疑惑 4-4

「主に月島くん、あとはわかりやすく態度に出てる瀬名くんかな? 今日は別な仕事が入ってこられなくなったみたいで、このあいだ会った時にすごく不服そうな顔をしてたよ。でもまあ、その気持ちというか心配はわかる気がしたよ。月島くんの佐樹さんに対するあんな顔を見たら嫉妬したくなっちゃうよね」 「そう、なんですか」  肩をすくめた戸塚さんに僕はどう反応したらいいのかわからなくて、曖昧な相槌だけを返してしまった。渉さんの気持ちは本当にまだ僕に向いたままなのだろうか。誰も気づいていないだけではないだろうかと思ってしまう。確かに渉さんは僕に対していつも優しい笑みを見せるけれど、優しいだけが愛情ではない。藤堂だっていまでは喜怒哀楽をはっきりと見せてくれるようになった。我がままだって言うし、意地悪いことだってあるし、拗ねたり怒ったりもする。  好きっていうのはきっと優しいばかりじゃない。どちらかと言えば、渉さんが瀬名くんに見せる顔のほうがよほど感情があるように思える。自分の内面を相手に見せるのは、それだけお互いの距離が近いからだ。遠慮があるうちはどうしたって自分を装ってしまう。  確かに渉さんのわかりやすい態度は僕への好意を隠していない。だけど僕に見せるのは優しい一面だけ。きっと弱さは見せてくれない気がする。 「撮影開始します!」  スタジオの中に大きな声が響く。その声に僕は少し俯き気味になっていた顔を上げ、カメラを手にして藤堂と峰岸の前に立った渉さんを見つめた。  好き、愛してる――彼の中にある僕への想いを確かに感じる。だけどなぜだか僕はそれに納得はしていない。もし瀬名くんに会わなければ、こんなことは思わなかっただろう。  甘い恋と苦い恋の違いなんて考えることもなかったはずだ。そしてそのどちらも恋愛には必要なんだってことは思いもしなかった。このままでは駄目だ。このまま僕だけを想い続けるのは渉さんのためにならない、そう思えてため息がこぼれてしまった。

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