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第783話 疑惑 5-2
僕の横で撮影を真剣に見つめていた戸塚さんがひどく残念そうな声音で息をついた。そんな声に僕は藤堂に向けていた視線を戸塚さんへと向ける。すると苦笑いを浮かべながら戸塚さんが振り返った。
「まったくの素人さんは今回が初めてだけど、月島くんと初めてやる子は大抵二度三度はストップがかかるんだよね。特にモデル歴が浅い子だと余計多いかな? 月島くんとモデルさんの呼吸が合わないっていう感じだね」
肩をすくめた戸塚さんは再びちらりと現場に視線を向けた。そこでは渉さんの少しの指示で的確であろう動きをする藤堂と峰岸がいる。撮影は止まるどころか見ているだけでも順調そうなのがよくわかった。そのおかげなのか周りの空気も張りつめたものではなく、ほどよい緊張をまとった空間になっている。
「編集さんも大人数で来てるし、もしかしたらページが増えるかもしれないな。ちょっと失礼しますね」
「あ、はい」
少し声を弾ませた戸塚さんが会釈をして離れていくのにつられ、周囲へ視線を巡らせば、わずかながら撮影開始時よりも人が増えているような気がした。編集さんということは雑誌関係者だろうか。そういったことは疎くてよくわからないけれど、渉さんの仕事ということだけあって注目されているのかもしれない。
そう考えると本当に僕は安易にこの話に飛びついてしまったのだと再認識させられる。撮影が開始され、あいだに昼休憩を挟みかれこれ五時間以上は経つが、まだまだ撮影は終わる気配がない。しかしこれだけの時間をかけて撮影されたものはどんな風に出来上がるのだろうかと、期待に満ちた眼差しを送ってしまうのが正直なところだ。
「まだ続くと思うので椅子どうぞ」
「あ、すみません」
戸塚さんが離れぽつんと立っていたのが気になったのか、ふいにスタッフの人に声をかけられた。驚きながらも頭を下げて、僕は差し出された椅子に腰かけてしまう。ずっと撮影している藤堂たちには申し訳ないが、さすがにずっと立っているのに疲れを感じ始めた頃だった。
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