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第784話 疑惑 5-3
渉さんが視線を向ける先には四、五十代くらいの口髭をはやしたスマートな出で立ちの男性が立っていた。すっきりとスーツを着こなし、佇まいも凛としていて渉さんが煙たがる要因がよくわからないほど顔立ちも整った男性だ。
露骨に嫌そうな顔をする渉さんに男性は困ったように苦笑いを浮かべてみせる。
「勧誘しないでくれる?」
「まだなにも言ってないよ」
「存在自体、認めてないから」
感情のこもらない平坦な声音で煩わしそうに目を細める渉さんに、男性はますます困ったような顔になるが、視線はちらちらと藤堂と峰岸に注がれていた。
「月島くん自らの選出と言われたら気になるでしょ。二人ともこの業界に興味ない?」
「勧誘するなって言ってるんだけど」
急に現れた男性に撮影が中断し、藤堂と峰岸は不思議そうに顔を見合わせた。業界への勧誘ということはモデル事務所かなにかだろうか。もしそうならば男性の仕草や表情、立ち振る舞いには納得がいく。無駄のない洗練した雰囲気が醸し出されている。元モデルの事務所社長とかそういう肩書きが僕の頭の中に浮かんだ。
僕がぼんやり考え込んでいるあいだにも渉さんとの言い合いは続いていたようで、いままで見たことがないような不機嫌の塊になっている渉さんがいた。やはり僕が普段見ている渉さんは、渉さんの一部分でしかないのだなと改めて感じる。
「面白いとは思うけど、受験あるからなあ」
「俺は興味ないです」
渉さんと男性の小さな攻防に肩をすくめた峰岸と藤堂が、それぞれに思っていることを口にする。するとなぜかその瞬間周りの空気がざわりと揺れた。
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