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第785話 疑惑 5-4
動揺にも似たその周りの反応に僕だけでなく藤堂と峰岸も首を傾げる。けれどそんな反応は予測済みだったのか、渉さんが大きく息をついた。
「だから駄目だって言ってるんだよ。二人とも高校生だし進路があるんだから本格的には無理だよ」
「高校生なのか! てっきり大学生くらいかと思ってたんだが」
渉さんの言葉に男性は心底驚いたような声を上げて藤堂と峰岸を上から下まで見つめ、また最後にじっと顔を見つめた。先ほどのざわめきの理由は二人がまだ高校生だという事実を皆知らなかったということか。確かに見た目だけなら二人は十分過ぎるほどのオーラがあって顔立ちも雰囲気も大人びている。そういえば最初に展示場で渉さんが藤堂を見たときも同じような驚きをしていたなと思い出す。
「バイト感覚でもいいよ」
「俺はやりません」
「大学は結構講義が多いって聞くしな」
相変わらず即決の藤堂に比べると、峰岸のほうは少なからずこの世界に興味があるようだ。けれど現実的な問題があって二の足を踏んでいるのか、返す言葉は曖昧に濁したものになっている。しかしそんな峰岸の言葉に期待を持ったのか、男性の目がきらきらと輝き出す。
「大学優先で短期契約も受け付けてるから考えてみて!」
「おいこら、神林。おっさん、帰らないと仕事切るよ!」
「あ、名刺おいていくから!」
不機嫌そうな渉さんの顔がますます険しくなっていくと、近くにいた戸塚さんがあいだに入り、神林と呼ばれた男性を諭しながら出入り口のほうへと促していく。しかし悪くない感触だと思ったのか、かなりひどい扱いを受けながらも男性は満面の笑みだった。こういう業界はこのくらいの勢いがないとやっていけないんだろうなと、思わず感心してしまう。
しかし渉さんの機嫌は明らかに下降している。苛立たしげに舌打ちをすると、カメラを手放しそのままスタジオの奥へと歩いて行ってしまう。その後ろ姿にスタッフたちは大きく肩を落としていた。
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