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第787話 疑惑 6-2
しばらく廊下を歩いた藤堂は、どこかの扉を開いたかと思えば、そこに身体を滑り込ませ僕の手を強く引いた。そして薄暗いそこで、引かれた勢いのまま僕は藤堂の胸に収まってしまう。
耳元にいつもより少し速い藤堂の心音が聞こえる。
「ここ、勝手に入って平気か?」
微かな照明が灯るそこは倉庫になっているのか、雑多にものがたくさん置いてあった。しばらく薄暗い中で視線を巡らしていると、意識がそれているのを咎めるかのように藤堂は抱きしめる腕の力を強くする。
「佐樹さん」
優しく甘えるように名前を呼ばれては、僕もその声の先を見上げずにはいられない。腕を伸ばして藤堂の背中を抱くと、嬉しそうに頬に顔を寄せてくる。そんな藤堂が可愛くて、でもなんだかくすぐったくて小さく笑ってしまった。
「ああ、やっと触れた」
「疲れたか?」
「疲れました」
長い息を吐く藤堂の髪をなだめるように優しく撫でると、まるでその手をねだるみたいに藤堂は頭や頬をすり寄せてくる。けれどあまり触り過ぎるとせっかくセットされた髪が乱れてしまう。それに気をつけながら再び髪を撫でれば、その手にやんわりと口づけられた。
「まだもうしばらく続きそうなので、充電させてください」
「なんだか悪かったな。こんなに大がかりだとは思ってなかったから、僕も驚いてる」
「まあ、一日の辛抱なので」
ため息交じりの声が耳元から聞こえてきて、僕はあやすみたいに藤堂の広い背中を軽く叩いた。するとふいに身を屈めた藤堂が僕の首筋に口づける。その突然の感触に肩を跳ね上げたら、その肩を逃すまいと掴まれてしまった。
「もっと触らせて」
「え! ちょっと、待った、藤堂?」
「佐樹さんが足りない」
唇で首筋をなぞり、手のひらは背中や肩を撫でる。その触れる感触に鼓動は急激に早まり、頬は自分でもわかるほどに熱くなった。
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