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第789話 疑惑 6-4

 楽しそうに笑う藤堂の表情にむっと口を尖らせたら、指先で首筋から顎にかけてなぞられる。まだ肌が火照るいまはそれだけでも大きな刺激になってしまい、肩が無意識に跳ね上がってしまった。すると指先は頬を滑り、最後に僕が一番弱い耳の輪郭をなぞる。少し強めに縁を撫でる指先の感触に肌がざわめく。 「……んっ」  小さく声を漏らした僕に藤堂は小さく笑って、目を伏せた僕のまぶたに口づけを落とす。優しい口づけだけれど、いまその感触は心臓を締めつけるほど苦しいものなる。けれどそれは背徳感などではない。心に広がり侵食してしまうほどのもどかしさが胸を締めつけるのだ。  もっと触れたい、触れられたい、けれどそれがいまは叶わない。そんな想いがあるから胸が締めつけられる。 「来週も会えるか」 「泊まれるかはわからないですけど、日曜日は必ず佐樹さんの家に行きますよ」 「うん、少しでも一緒にいられるならいい」  そっと持ち上げられた指先に口づけられ約束をもらうと、胸を締めつけていた重くもやもやとしていた気持ちが少しだけ晴れた気がする。単純なやつだと自分でも呆れるけれど、こればかりはどうしようもないんだ仕方がない。  本当に好きとか愛してるっていうのは優しいばかりじゃない。貪欲で相手の心が欲しくてたまらなくて、愛おしさが溢れて仕方がない。  藤堂に出会って甘くて優しい恋も、ほろ苦くて切ない恋も知った。藤堂といると色んな世界が見えてくる。僕の中でなによりも色づいたこの想いは、これから先もきっとたくさんのことを覚えていく。そしてそのたびに何度も愛おしいと胸を募らせるだろう。  楽しいことばかりではないけれど、それでも藤堂といると心が安らぐ。早く二人だけでいられるようになればいい。そんなことを思いながら、僕は腕を伸ばして藤堂を強く抱きしめた。

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