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第790話 疑惑 7-1
あれから休憩が終わったと告げに来た峰岸が倉庫の扉をノックした。迷うことのない足取りでまっすぐたどり着いた峰岸に驚いたが、どうやら撮影前に倉庫と楽屋の扉が隣り合わせだから間違わないようにと、スタイリストの宮原くんに言われていたらしい。けれど藤堂が僕の手を引き出て行った後ろ姿を見て、そこに行ったのだろうと予測されていたのかと思えば羞恥しかない。僕の顔を見てにやにやと笑った峰岸の顔が心の内を見透かしているようで、なんだかひどくいたたまれない気持ちになった。
それからそんな気恥ずかしさに悶々としている僕をよそに、後半の撮影も藤堂と峰岸は順調にこなし、すべての作業が終わったのは二十時を回ったところだった。
「お疲れ様でした。今日は好きなだけお肉食べていいからね」
「よーし、んじゃこの辺から」
撮影が終わったあと、渉さんがご飯をご馳走してくれるというので近くにある焼き肉店に来た。しかしそこは普段なかなか入ることができないだろう、桁のちょっと違う店だ。広い半個室の座敷に通され、メニューを見て値段が書かれていないことにまず驚く。正直言って気が引けてヒヤヒヤしていたが、峰岸の遠慮のなさでその気持ちがどこかへ行ってしまった。開き直りというか諦めのような気分。とはいえ僕が遠慮したとしても、戸塚さんがどんどん頼んでしまいそうでもある。現に峰岸と二人でほとんど注文を済ませてしまった。
まだ仕事が残っている渉さんと戸塚さんはお酒は飲めなくて、全員お茶で乾杯すると肉がやってくるまで雑談を始める。向かい側にいる峰岸と渉さんはなんだかやけに親しい感じで、いつの間にそんなに仲よくなったのだろうと思ったが、部活の時に連絡先を交換していたと藤堂に教えてもらった。
「そういえば、雑誌っていつ頃発売になるんですか?」
「あ、えーとね。確か来月の下旬の発売だったはず。できたのみんなの家に送りますね」
「いや、発売日がわかったら買いに行きます。自分で手に取ってみたいので」
「そっか、本屋で手にするドキドキ感は大事だね」
雑誌は二十代向けのファッション誌だが、女性向けの雑誌ではないので本屋で手にしても恥ずかしくないだろう。しかしあれだけたくさん撮ったけど雑誌にはどのくらい使われるんだろうか。
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