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第792話 疑惑 7-3

 その人を見た瞬間の渉さんの顔と言ったら、眉間にしわを寄せひどく嫌そう。そんな表情を見て相手は少し困ったように笑い、僕らに向かって小さく会釈した。 「あ、瀬名くん。月島くんの横、空いてるから座って」 「ちょっと待って戸塚さん! これどういうことなのさ!」 「えー、仕事終わったって連絡が来たから、間に合うならおいでって声かけたんだよ」 「なんで! 意味わかんないんだけど! こいつは関係ないでしょ!」  隣にある隙間に腰を下ろされ、あからさまに渉さんは身体を引いた。けれどその反応には慣れているのか、瀬名くんは気にせず店員に飲み物やメニューを頼んでいる。主原因の戸塚さんなどはもうまったく関係ないみたいな顔で肉を頬ばった。渉さんには申し訳ないけど、この空気は騒いだほうが負けな気がする。  それにしても渉さんの瀬名くんに対する態度がいまいちわからない。以前会った時は自ら傍に置いている印象があったけれど、いまは傍にいるのも嫌って言う顔をしている。どっちが本当の感情なんだろう。これはどっちかじゃなくて、どっちもなんだろうか。相反する気持ちが混在している、ということなのか。 「あの、戸塚さんから見て、二人はどうなんですか?」  目の前にいる渉さんたちに気づかれないよう、こっそりと隣に耳打ちすれば、戸塚さんはしばらく二人を見つめてからゆっくりとこちらを振り返る。そして小さく唸ってから、ぽつりと呟いた。 「半々かな」 「半々?」 「うん、まだどっちつかずだね。主に月島くんが。表面上は結構気を許しているんだけど、多分まだもっと奥のほうで引っかかってるものがあるのかも。僕たちが覗けない、うんと深いところ」  僕たちが覗くことのできない深いところ。渉さんはいつも上手に仮面を被る。優しい笑顔で心の中を覗かせない。それはなんとなく気づいていたけれど、言葉にされるとなんだかすごく深い闇のような気がした。渉さんが抱えているものはなんだろう。瀬名くんはそれに気づいているのだろうか。 「瀬名くんは一番近いところにいる。だから余計に警戒しているんだよ」 「二人はうまくいかないんですかね」 「んー、どうだろうね。佐樹さんはうまくいって欲しい? 自分から感情が離れればいいって思ってる?」

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