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第793話 疑惑 7-4

「あ、えっと、はい。思ってます」 「そっか、でも僕は月島くんの佐樹さんへの気持ちはいま必要な気がしているよ。いま彼が立っていられるのは佐樹さんへの想いがあるからこそだと思う。月島くんは人の裏側がよく見える子だから、佐樹さんみたいに裏表のない人のほうが安心できるんだよ」  なに気ない顔をして戸塚さんは言うけれど、それって依存に近いのではないだろうか。でも僕という存在を拠り所にして、そこで安心を得ても結局報われない。好きでいてくれるのは嬉しい。しかしそれではいつまで経っても渉さんは本当に幸せにはなれないのではないか。 「瀬名くんもほとんど裏表ないから、一緒にいられるんだろうね。いつか佐樹さんの元から巣立つ日は来るよ。でもそれはきっといまじゃない」 「瀬名くんは辛くないんでしょうか」 「そりゃあ、辛いし苦しいよ。だけどね、ほら、見て」 「え?」  戸塚さんの視線に誘われて正面に視線を向けると、山盛りのサラダを瀬名くんに手渡されている渉さんの姿がある。相変わらず眉間にはしわが寄っていて、ものすごく不服そうな顔をしていた。それでも皿に盛られたサラダを黙々と食べている。時折耳元でなにか話しかけられて、ものすごい目つきで渉さんは瀬名くんを睨んだ。 「佐樹さんは月島くんが人に触られるのが嫌いって知ってた?」 「い、いえ、知りません。そんな素振りとか、全然」 「やっぱり、気づいてないか。月島くんって人に触られないように自分からうまくスキンシップを取るし、相手との距離を測るのも得意なんだ。でもよく見て」 「あ……」  もう一度二人を注意深く見てみると、戸塚さんの言わんとすることがようやくわかった。目の前にいる渉さんと瀬名くんの距離。隙間に割り込んだというのもあるかもしれないが、それでも一度は避けたはずなのに、二人の肩が触れ合うほどに近い。瀬名くんの指先が渉さんの髪をすくって、耳元にかける仕草までごく自然で、違和感がまったくなかった。もちろん渉さんはしかめっ面をしたままだけれど、それを払うだとか身をよじるだとか、そんな素振りすらない。  この二人のあいだにあるものは好きとか愛しているとか、そんな単純な言葉ではないのだなと感じた。

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