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第795話 疑惑 8-2
「俺の前であまり気安くほかの男に触らせないで」
「あ、えっと、悪い」
耳元に囁かれた言葉で僕の頬が熱くなる。小さな独占欲が身体を締めつけるけれど、それがなんだかくすぐったくて嬉しくて、胸が熱くてたまらなくなった。身じろぎすることなく藤堂を受け止めていると、うなじに優しく口づけられてしまう。
「今日は佐樹さんずっとあの人のことばかり考えていたでしょ」
「え? あ、いや、そうでもないぞ」
「嘘ばっかり。まあ、早々にくっついてもらったほうが俺は嬉しいけど」
「んー、まだ時間はかかりそうだけど。こればかりは周りが急かしても仕方ないしな」
芽吹くまでは焦って水をやり過ぎても、日に当て過ぎても駄目だ。いまはまだ二人を見守るしかできない。でも渉さん以外と気難しそうだから、瀬名くんには頑張ってもらいたいな。
「おいこら、夜で暗いからっていちゃついてんな。俺の存在忘れてるだろ」
「え! あ、そんなことない」
大きなため息と共に聞こえてきた声に肩が跳ね上がった。慌てて後ろに立っていた峰岸を振り返ったら、目を細めて呆れたような表情を浮かべている。そんな顔を見てしまうと返す言葉も思いつかなくて、へらりと曖昧な笑みを浮かべてしまった。すると誤魔化すような僕の反応に、峰岸は大げさなほど大きく肩をすくめる。
「ったく、あいつらなら心配しなくてもそのうちくっつくと思うぜ」
「え? そうか?」
「あいつ、ちゃっかりとテーブルの下で渉の手、握ってた」
「えぇ? ほんとか?」
「俺、すげぇ牽制されてたわ」
そうか峰岸は渉さんの隣だったから、僕たちが見えない角度の二人が見えていたのか。なんだかんだと渉さんと仲がいいし、瀬名くんから見たら目の上のたんこぶかもしれない。それで威嚇しちゃうなんて瀬名くんも案外気が短そうだ。でも触れられるのが嫌いなのに黙って受け入れてるのは、渉さん的譲歩なのか、単なる受け流しなのか。
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