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第799話 疑惑 9-2

 もう随分と時間が経っているような気がしたが、携帯電話を握る手が震えているのに気づき、思ったよりも先ほどの出来事が衝撃だったのだと改めて実感する。そして隣の人がとっさに腕を伸ばしてくれなかったら、そう思うとぞっとした。 「あれ? 西岡先生?」 「……っ!」  時間も過ぎて人の少なくなったホームで急に声をかけられて肩が跳ねた。そして驚いて振り返った先にいた人物に思わず首を傾げてしまう。 「え? ま、間宮?」 「わっ、まさかこんなところで西岡先生に会えるなんて思いませんでした!」  驚きをあらわに目を見開いた僕の視線の先で、同僚である間宮が至極嬉しそうな笑みを浮かべていた。けれど突然の遭遇に僕の思考はあまりついていけていない。目を瞬かせた僕は思わず間宮の顔を見つめ、俯きまた見るという行動をしてしまう。まさかこんなところで僕も間宮に遭遇するなんて思ってもみなかった。 「その携帯どうしたんですか?」 「あ、ああ、ちょっと線路に落として」  反応が鈍い僕に少し首を傾げた間宮は僕の顔をじっと見ていたが、ふいに視線が下りて僕の手元にある携帯電話を見つめる。見るからに破損してしまっているのがわかるので、誤魔化すことも思いつかず人に突き飛ばされたことだけ伏せて正直に答えた。 「え? 大丈夫ですか」 「うーん、もう使えそうにもないから、明日学校が終わったら買い替えに行くよ」  これはもう全損だから修理というよりも買い替えしたほうが早いだろう。それに四、五年くらい同じものを使っていたので、これと同一のものはもうないだろうから機種変更になるのは予想できた。あとはデータさえ無事に移行できればいいのだが、電源が入るのかが怪しい。  バックアップは親友の明良にマメにしろと言われて、半年くらい前に家にあるノートパソコンに保存した記憶が、なんとなくある。

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