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第800話 疑惑 9-3
あれから大して連絡先も増えていないし、もしもの時はなんとかなるかと思うが、めったにパソコンの電源を入れないので大丈夫だろうかと動作が気になる。
「データ移せるかな」
「あ、メモリカードが無事なら大丈夫ですよ」
「ん? あ、そっか。そういえばそんなのがついてたな」
基本店員任せなところがあるから、いまいち携帯電話に関して知識がない。電話もそんなにかけないし、メールもほとんどしないから、とりあえずいつでも家族と連絡が取れるために持っているお守りのようなものだ。
「明日行くなら付き合いましょうか?」
「え?」
思いがけない申し出を受けて僕は思いきり首を傾げてしまう。話の流れ的に大きな逸脱ではないが、そんな風に返されるとは予想していなかった。疑問符を頭にいくつも並べながら間宮を見つめると、ふっと吹き出すように笑われる。
「西岡先生が一人で行ったら、ショップの人に勧められて、慣れない最新の携帯電話を買ってしまいそうですから」
「ん、あ、まあ完全には否定できないけど」
満面の笑みで言われたそれは否定するのが難しかった。同じ携帯を何年も使い続けている理由はまだ使えるというのもあるが、店頭で新しい機種を推し進められるのに弱いからだ。いまどきの携帯電話など絶対に使いこなせないとわかっているのに、持て余すそれを持ち帰る自分が想像できる。
「私も最近携帯が故障して機種変更したんです。これ西岡先生が使っている携帯の後続機なので使い勝手が似ていていいと思いますよ」
懐から取り出した携帯電話を開き、間宮は僕の手にある携帯電話と並べるように差し出す。いま僕が使っているものよりも薄くスリムになっているけれど、ディスプレイやキーの見た感じは後続機だけあってあまり大きな変化はない。少し触らせてもらったが、持った感じも軽くていまのものよりも操作しやすい印象だ。
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