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第804話 疑惑 10-3

 心配性な藤堂が僕からの連絡を待って一晩もどんな不安な気持ちでいたのだろうかと、思うほどに胸が締めつけられる。 「大丈夫ですよ。さっきまで寝ていたし、昼にまた少し寝ますから」 「今日はバイトあるのに」 「平気です」  しがみつく僕の背を優しく叩いて藤堂は頬に唇を落とした。 「藤堂?」  触れるだけの微かな口づけはさらにまぶたやこめかみにも落とされ、次第に口づけが下りて顎をすくい上げた。自然と上を向かされて僕を見下ろす視線に囚われる。それが気恥ずかしくて目を伏せたら、ゆるりと弧を描いた藤堂の唇が近づきやんわりと唇に口づけられた。そして最初は触れるだけだった口づけは少しずつ深くなり、舌先を絡め取られる。 「んっ」  いつもより熱い舌が優しく口内を撫でるたびに鼻を抜けて甘えた声が漏れる。それが恥ずかしくて必死に飲み込もうとするけれど、背中を走るむずむずとした感覚に声が上擦って何度も飲み込みきれない声がこぼれた。そんな縋るような自分の声に顔が熱くなるが、顔を俯けることもできなくて、視線が絡まないように目を伏せるだけで精一杯だった。 「とう、ど、待って……んっ」  半ば開きっぱなしになっている口からは甘さを含んだ声が漏れて肩が震える。痺れるような感覚に足や腰の力が抜け落ちてしまいそうで、しがみつくように首に回した腕に力を込めたら、藤堂の手が支えるように抱き寄せてくれた。 「佐樹さん大丈夫?」 「ぁっ、いまあんまりそこ、触るな」  くすぐるように耳裏や耳たぶに触れられてまた背中の辺りがむずむずとする。さらに口の端を舌先で舐められると肩が跳ね上がった。 「わざとだろ」  目の前にある瞳がいたずらの色を含んでいるのに気づき目を細めれば、藤堂は小さく笑って誤魔化すように僕の髪を梳いて撫でる。

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