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第807話 疑惑 11-2

 表情にこそ現れていないが、視線に込められた気持ちがひと目でわかって少しうろたえてしまう。 「き、昨日の帰りに携帯が壊れて、それで今日買いに行くんだ」 「そうなんですか」  声が上擦らないように気をつけながら言い訳を答えるけれど、藤堂からはその先を追求されているのがよくわかる。口元は笑みを浮かべてはいるが、こちらを見る目が笑っていない。 「そういえば昨日は藤堂くん撮影だったんですよね。私、電車のホームで偶然に西岡先生に会ったんですよ」 「あ、うん、そうなんだ」  ぱっと華やいだような笑顔を浮かべる間宮に対し、藤堂の顔が見る間に不満げなものに変わる。そしてそんな二人の様子に、僕はなぜだか気まずい雰囲気を感じてそわそわとした気持ちになった。 「間宮先生の住まいはあの辺りなんですか?」 「いえ、違いますよ。昨日は用事があって」 「ふぅん、そうなんですか」  興味の欠片も感じさせない曖昧な相槌を打ちながら、少し眉間にしわを寄せた藤堂はなにか言いたげに目を細めた。機嫌は先ほどまでに比べるとかなり悪くなっている。なんとなく藤堂の心の内がわかるような気がして、笑みを浮かべようとする頬が引きつってしまう。  多分きっと昨日の夜、一緒に帰らせてもらえなかったことを不満に思っているのだろう。帰り際は結構渋々という感じだったし、間宮とずっと一緒だったなんて知ったら余計に怒りそうな気がする。 「もしかして、二人で行くんですか?」  そして藤堂もまた勘が鋭い。僕と間宮に視線を向けて探るような目で見つめてくる。そんな視線に今度は心臓が跳ね上がった。どんどんと速まる鼓動にますます落ち着かない気持ちになる。けれどうまい言い訳も浮かんでこなくて、なんだか冷や汗が出てきた。

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