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第808話 疑惑 11-3

「そうなんですよ! 放課後に一緒に行こうと昨日話したんです」  なぜそんなにも嬉しそうに話すのだと、間宮の口を塞ぎたい衝動に駆られる。そして僕はじっとこちらを見つめている藤堂の視線から逃れるようについ視線を下げてしまった。後ろめたいことなどなにもないはずなのに、藤堂の視線がいまはなんだか痛い。 「先生は人が好いから、押し切られると弱いですよね」 「そうなんです。うっかり最新機種なんて勧められたら、断れなさそうな気がして」 「へぇ、西岡先生のことよく見ていますね」  声が、どんどん不機嫌になっているのがわかる。いつもより少し低くて、どこか平坦で、感情がこもっていない。突き刺さるような視線を感じるものの、顔を上げるに上げられない状況で、僕はそわそわと両手を握った。  別になにか悪いことをしたわけじゃない。じゃないけど、昨日は連絡もせずに藤堂には心配をかけてしまった。それなのにのんきに携帯電話を買い替えに行く約束なんかしている僕は、かなり薄情に見えるだろう。藤堂が怒るのも無理はない。 「携帯、早く使えるようになるといいですね」 「あ、ああ」 「じゃあ、俺はこれで失礼します」 「……うん」  藤堂の言葉にとっさに顔を上げてしまったが、引き止めるわけにも行かずに僕は小さく頷く。こちらに背を向けて歩き出した藤堂を見つめて、携帯電話を新しくしたらすぐにメールを送ろうと心に誓う。しかし今日は返事をくれるだろうか。それだけが気がかりだ。  静かに戸が閉められると、僕は詰めていた息をようやく吐き出した。 「藤堂くんなにか用事だったんですか?」 「あ、まあ……そんなところだ」  うまくかわせるような言い訳もなく曖昧に応えるけれど、間宮は特に気にした素振りも見せずに「そうですか」と笑った。この物事をあまり深く追求してこないところはいつもありがたいと感じる。いま突っ込まれたら正直なにを言ってしまうかわからない。

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