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第809話 疑惑 11-4
藤堂に背を向けられるのはやっぱり堪える。追いすがって腕を伸ばしたい気持ちにすらなってしまう。早く、夜にならないかな。
「あ、そうだ。西岡先生。今日は少し生徒会に用ができたので、ちょっとだけお時間いただいてもいいですか?」
「うん、僕も多分なにかしら用事を任されると思うから大丈夫だ。帰りに職員室に顔を出してくれ」
「はい、わかりました」
最近の僕はこの準備室に入り浸ることも減って、職員室にいることが増えた。しかし忙しいほかの先生たちに比べると役職もなくはっきり言って僕は暇だ。そのため職員室に行くとあれこれと用事を頼まれることが多い。けれど手持ち無沙汰になってしまうことを考えたら、任せてもらえるほうがまだありがたいと思える。
「あ、なんか飲む?」
「いただきます! お水汲んできますよ」
「うん」
いつものように空になっている湯沸かしポットの蓋を開けると、間宮がすかさず手を伸ばしてきた。そしてその手にポットを渡せば、「いってきます」と言って準備室を飛び出していく。その後ろ姿を見つめながら、僕はいま失敗したことに気がついた。
「ん、やばい。いつもの調子で声をかけてしまった」
ついさっき藤堂に嫉妬の眼差しを向けられたばかりだというのに、僕は相変わらずうっかりしている。また間宮と二人でのんびりお茶を啜っていると知られたら、間違いなく眉をひそめられてしまうことは目に見えてわかるというのに、僕は本当に学習能力がない。我ながらひどく残念過ぎて、藤堂がヤキモキしてしまうのもわかる気がする。同じことをされたら自分だって嫌だって思うのに、どうして僕はこうも短慮なのだろう。
しかしもう口にしてしまったものは仕方がない。今更取り繕ってもおかしいだけだ。とりあえず大人しく間宮が帰ってくるのを待つことにした。
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