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第811話 疑惑 12-2
「希望の色が在庫にあってよかったですね」
「ああ、付き合ってくれてありがとうな」
ショップにいるあいだもメールを打っているあいだも、黙って待っていてくれた間宮に改めて礼を言えば「お安い御用です」と満面の笑みを返される。その笑みにほっとして腕時計に視線を落とせば、まだそれほど時間は遅くなかった。
「腹も減ったし、なにか食べて帰るか?」
以前の僕ならば出てこないだろう言葉が自然と口から発せられる。藤堂がいてくれるようになって、僕の腹時計はかなり正常な働きをするようになった。朝は珈琲だけでは物足りなくなったし、昼も固形栄養食にお世話になることはほとんどない。夜も量こそ多くは食べられないが、食事をするのが当たり前になった。
いまもまさに小腹が空いてなにか食べたい欲求が強い。付き合ってもらった礼をこめて声をかければ、間宮は嬉しそうに頬を緩ませた。
「そうですね」
「いつもの定食屋でいい? 今日のお礼にご馳走するぞ」
「ありがとうございます。もちろんそこでいいですよ」
小さく頷いた間宮に僕は思い浮かんだ店の方角を指差した。駅前には色んな店があるが、僕たち教師陣が行く店はなんとなく決まっている。馴染みの居酒屋に定食屋。だから名前を言わなくとも大体どこなのかは把握できる。それに僕は基本的にお酒を飲まないし、お酒で失敗をした間宮はいまのところ禁酒をしているから、二人で行く場所は限られてくるのだ。
目的の店はいまいる場所からはすぐ近く、大通りを挟んだ向かい側だ。横断歩道を渡っていくのは遠回りになるので、歩道橋を通っていこうと僕は方向転換をした。
「あ、西岡先生すみません。先に行っててもらっても?」
「ん?」
慌てた声を上げて立ち止まった間宮を振り返ると、携帯電話がその手の中で着信を知らせていた。
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