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第812話 疑惑 12-3

「わかった」  間宮の様子からすぐに終わる内容ではないと推測できたので、僕は頷いて再び歩道橋に向かって歩き出した。階段を数段上りちらりと視線を落とせば、道の端に移動しながら間宮は電話の応対をしているのが見える。のんびり歩いていけば間宮もすぐに合流するだろうと、僕はまたゆっくりと階段を上り始めた。 「ん、なんの音だ?」  階段を上ってると大通りを流れる車のエンジン音に紛れ、硬質ななにかが甲高い音を響かせているのに気がついた。その音を探すように視線を持ち上げれば、丸いビー玉のようなものが上のほうから跳ねながらいくつも転がり落ちて来るのが見える。なにげなくそれを視線で追いかけさらに階段を上っていくと、ふいに大きな影が自分を覆う。 「え?」  突然感じた人の気配に驚いて身構えたけれど、身体は勢いよく伸ばされた腕に突き飛ばされた。とっさに顔を上げてその腕の先にいる人物を見上げたが、逆光でその顔がわからなかった。 「西岡先生!」  背後から僕の名を呼ぶ間宮の声が聞こえる。けれど突き飛ばされた時に階段のへりで足を滑らせた僕は、軽く宙に浮いてから身体を階段に打ちつけられ、そのまま数段転がり落ちた。 「痛っ」  落ちると気づいた時、とっさに頭をかばい身体を丸めたけれど、その代わりにさらけ出された背中や肩がズキズキと痛む。しかし一番下まで転がり落ちなかったのは幸いだったかもしれない。僕の身体は階段の途中で駆けつけた間宮が抑えてくれたおかげでさらなる衝撃をまぬがれた。 「大丈夫ですか?」 「なんとか」  昨日の今日で二度も肝を冷やされる出来事に遭遇するとは思いもよらなかった。この状況ではさすがに作り笑いも浮かばなくて、身体の痛みに顔をしかめるしかできない。

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