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第813話 疑惑 12-4
「身体大丈夫ですか? どこか傷めてませんか?」
慌てているのか間宮の声がいつもより早口で上擦っている。
「あー、手首捻ったかも」
身体の痛みももちろんだったが、右手首が熱を持ったように熱くて鈍い痛みが走る。階段に落ちた時にとっさに手をついてしまったのかもしれない。左手で手首を掴んでみるとじりじりと痺れるような痛みが広がった。
「病院行きましょう! 遅くまでやってるところ知ってます」
「え?」
急に立ち上がった間宮は携帯電話を取り出しどこかに電話をし始めた。いつもはのんびりとしたところしか見ていないので、その行動の速さに目を見張ってしまう。僕が目を瞬かせ驚きをあらわにしているあいだに予約を取りつけた間宮は、僕のスーツの汚れを払うと手を差し伸べてきた。
「歩けますか?」
「あ、うん。大丈夫だ」
その手をとるかどうか一瞬迷ってしまったが、いつまでも歩道橋の階段で座り込んでいるわけにもいかないので、差し伸ばされた手に左手を預けた。
「右手首のほかに痛いところないですか」
「うーん、多分平気だ」
身体はあちこち痛むけれど、右手首ほど腫れているような感覚はない。しかし心配げにこちらを見つめてくる間宮の表情に曖昧な返事をしたら、ますますその顔に心配の二文字が浮かんだ気がした。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ」
「心配しますよ。あまり無理をしないでくださいね」
「ああ、わかってる」
これ以上心配かけるのは申し訳ないなと、今度は言葉を濁すことなく返事をした。すると少しばかりほっとした様子で間宮は小さく息をつく。
この様子だと僕が階段から足を滑らせたと思っているのかもしれない。もしかしたら人影でも見ているのではと思ったが、余計なことを聞いて混乱させるのは悪いと僕は小さく笑みを返した。
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