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第820話 疑惑 14-3

「これ、どうしたんですか」  ただの写真であればここまで表情が曇ることもないだろうが、何枚もあるこの写真は明らかに盗撮されたものだ。場所は自宅マンションが主で、時々外出した時のものや学校近くのもの。写真の角度は様々で、遠くからのものが多いが以外と間近で撮られているものもあった。 「あー、うん、なんか最近うちに届くようになって」  ひどく難しい顔をして箱の中の写真を手に取る藤堂に言葉が詰まる。  もっと早く知らせておけばよかっただろうかと、僕は箱の中の写真に視線を落とした。毎回届く枚数が多いので、結構な深さがあるにもかかわらず、写真のかさは箱の半分くらいになっている。ちょっと改めて考えると異常な量だな。 「佐樹さんこっち来て」  藤堂の手元を見つめながら立ちっぱなしだった僕に、写真を箱に戻した手が向けられる。まっすぐに僕を見る視線に思わず首を傾げてしまったけれど、箱をテーブルに置いてそっと藤堂の手に自分の手を重ねた。すると引き寄せるように力が込められて、僕はバランスを崩して藤堂に倒れこんでしまう。 「藤堂?」  急に抱きしめられて胸の鼓動が少し速くなった。すり寄るように頬を寄せられるとますますそれは速くなる。ざわつく胸を誤魔化すように、無言のままの藤堂にそっと腕を伸ばして首元へ抱きついた。するとぐっと腰を引き寄せられて、僕は藤堂の膝の上に収まる形になってしまう。それが少し恥ずかしくて身をよじったけれど、背中に回された腕が僕の動きを封じるかのように強くなる。 「写真だけ? ほかにはなにもないですか?」 「え? ああ、うーん」 「なにかあったんですか?」  心配げな藤堂の表情に言葉がうまく紡げない。けれどいまここで話しておかなければという気持ちになった。直接関連がなかったとしてもなにもなかったわけではなく、藤堂には誤魔化したままになっている。

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