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第821話 疑惑 14-4

 やはりずっと隠し事をしたままでいるのは、この先のことを考えるとお互いのためによくない気がする。それに僕は秘密を抱えられるほど器用ではない。  心の中であれこれと悩んだ末に、僕は携帯電話の故障や怪我の理由も藤堂に話すことにした。 「実は」  話を切り出すと藤堂の表情は驚きへと変わり、次第に深刻なものになる。そんな藤堂に戸惑いながら黙っていたことを謝罪すると、少し目を伏せたのち長くため息を吐き出された。 「ごめん」  怒っているような雰囲気は感じとれないが、申し訳なさが込み上がる。相変わらず僕は人の気持ちを汲み取るのが得意ではないなと、改めて気づかされた。僕の場合は心配をかけまいとするほうが余計に心配をかけさせることになるのかもしれない。  こんな風に藤堂の顔を陰らせるくらいなら、下手な嘘なんてつくのではなかった。 「そんなに謝らなくてもいいですよ」 「けど」  視線を持ち上げた藤堂は少し苦笑いを浮かべて僕を見つめる。その視線に僕は言葉を紡ごうとするが、謝罪しか思い浮かばなくて口を引き結んだ。いま謝ったところでなんの解決にもならない。藤堂だって謝られるのは複雑だろう。  怪我の時だってすごく心配してくれた。藤堂はいつだって僕をまっすぐに受け止めてくれる。僕がすべきことは、この先、彼に秘密を作らないことだ。 「これからはなにかあったら俺に一番に教えてくださいね」 「うん、わかった」  僕の右手を持ち上げた藤堂はその指先にくちづけを落とす。そしてその唇は手の甲を伝い手首に触れると小さなリップ音を立てた。  腫れが引くまでずっと切なそうな顔をして藤堂は手当てをしてくれた。自分の痛みのように胸を痛めて、あの時もずっと優しいキスをくれた。だから僕は自分のことをもっと愛さなければいけないと思う。そうしなければ藤堂まで傷つける。  いまの僕たちは二人で一つなんだ。

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