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第823話 疑惑 15-2

 もう見慣れたはずなのに、こうして間近に寄せられると胸が変にざわめく。  そしてそんな僕の気持ちを見透かしていそうな瞳に捕らわれると、身動きがまったくできなくなってしまう。 「佐樹さんは可愛いね」 「言うな」  からかうみたいに小さく笑われて頬が一気に熱くなった。さらに耳にまでじわりと熱を感じて、僕は慌てて目を伏せる。けれどその視線を引き戻すかのように唇を奪われると、僕は目を見開き藤堂の瞳を見つめてしまった。 「……ん」  そして優しく細められた目にまぶたを閉じれば、唇を舌先で優しくなぞられぞくりとした感覚に肩が震えた。そんな自分の反応にまた羞恥で顔が熱くなるが、何度繰り返しても同じ反応をしてしまう僕に藤堂はいつも優しく笑う。 「佐樹さんが可愛過ぎるから、俺は心配で仕方ない」 「そんなことを思うのはお前くらいだ」  甘い口づけに翻弄されているあいだにソファに押し倒されていた僕は、見下ろす藤堂の視線をとがめるように目を細めた。けれど藤堂は僕の眼差しに頬を緩めるばかりで、ちっとも聞いてはくれない。こういう時の藤堂は、僕を溺れるほど甘やかす。嬉しいけれどむず痒くて、ひどくいたたまれない気持ちになる。 「じゃあ、俺だけが知ってる。それだけでいいです」 「そんな恥ずかしいことを言うのもお前くらいだ」  指先で僕の髪を梳きながら至極嬉しそうに微笑んだ藤堂になるべく平静を装うが、心の動きは正直で自然と顔の火照りが増す。次第に藤堂の触れている場所すべてが熱くなってくるようなそんな錯覚さえしてしまう。やんわりと触れては離れる優しさがもどかしくて髪を撫でる手を掴んだら、少し驚いた顔をしたあとに藤堂はそっと口づけを落としてくれた。 「あんまり可愛いことばかりされると、色々ともたないです」 「そればっかりしつこい」

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