824 / 1096

第824話 疑惑 15-3

 何度も可愛いと繰り返す唇を片手で塞いで眉をひそめるけれど、そんな僕の顔を見て藤堂はまた嬉しそうに笑う。いまはなにを言っても喜ばせるだけかもしれないと、僕は口をつぐんで緩んだ藤堂の頬を軽くつまんだ。 「佐樹さん、好きだよ」 「や、……あっ」  優しくて甘い言葉と共になぞられた肌の感触に、小さく声が漏れて身体が跳ね上がった。それが恥ずかしくて思わず縋るみたいに強く手を握ったら、ますますその先を煽るように手のひらが背中を滑っていく。ただ触れるだけではないその手に身体を震わせると、僕はこちらをじっと見つめる藤堂を見上げた。 「涙目でその顔は反則、やっぱり少しは自覚してください自分のこと」  耳元に寄せられた唇から囁かれる言葉に僕はぎゅっと目を閉じる。鼓膜を震わす声に胸が鼓動を速めてどうにかなってしまいそうなのに、唇は耳たぶを食みゆっくりとフチをなぞっていく。その感触に身体の奥がしびれていくようだった。 「……藤、堂」  まぶたを閉じていると藤堂の息遣いや触れる手の熱がいっそう強く感じられる。なだらかな肌を滑る手のひらは普段触れている時よりも熱くて、触れられるたびにそこから熱が広がった。 「ねぇ、佐樹さん。時々あなたを誰の目にも届かない場所に閉じ込めたくなる」 「藤堂?」  どこか切ないような藤堂の声に慌てて目を開けば、まっすぐと僕を見つめる視線に囚われる。少し不安げに揺れるその瞳に、僕はそっと手を伸ばし藤堂の頬を包んだ。目尻を優しく撫でれば、甘えるように手のひらに頬を寄せてくる。 「そんなことできないって、自分でもわかっているんですけど」 「っん……」  首筋を伝い落ちた藤堂の唇が鎖骨の辺りをきつく吸い上げる。そこに残されたであろう赤い痕を想像するとなぜだか胸がしめつけられる思いがした。

ともだちにシェアしよう!