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第827話 疑惑 16-2
「新しい生徒会には顔を出したか」
「んー、いや、まだだけど」
今月の初めに行われた生徒会選挙が終わってもう二週間以上は経つけれど、代理顧問が終わってからは特別な用件もないので生徒会には顔を出す機会もない。まったく気になっていないわけではないが、用事もないのに気安く出入りするのもどうかと思ってしまう。けれど少し返事を濁した僕に飯田はなぜか満面の笑みを浮かべた。
「なんだその笑顔」
さわやかな笑みだがなんだかひどく胡散臭い。目を細めてじっと見つめると、やたらとにこにこと笑い、なにやら大判の封筒を差し出された。
「まだ行ったことのない西岡にきっかけを与えてやろう」
「別に頼んでない」
これはあれだ。飯田は面倒くさい案件を僕に回してこようとしている。それを察して眉をひそめたらますます笑みが深くなった。煌びやかな光をまとったような笑みに、僕はなんだか嫌な予感がしてますます頷きたくない気持ちになる。
「俺、こう見えて忙しいんだ」
「だから?」
「みんな気づいていないみたいだけど、ここに暇を持て余してる奴がいると言ってもいいぞ」
「脅す気か」
確かに僕は職員室にいる時間がほかの先生たちよりも短いので、面倒ごとに関わる機会も少ない。おかげで文化祭のことも忘れかけていたくらいだ。決して仕事をするのが嫌なわけではないけれど、こういう忙しい時期は急に降って湧いたようにあちこちから仕事を持ちかけられそうで、少しばかり遠慮したいのだ。
「届けるだけか?」
「ああ、生徒会長に渡してくれればいいだけだ」
「わかったよ」
ほかの用件を頼まれるよりこちらのほうがどう考えても簡単なことだと、僕は飯田の差し出す封筒を受け取った。すると飯田は任を解かれて安堵したのかあからさまに機嫌よく笑う。
しかし書類を届けるだけならばなんてことない用事な気がするけれど、なにをそんなに避けているのだろうと、僕は不思議に思いながら手に残された封筒を見つめた。
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