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第830話 疑惑 17-1

 なぜこんなにも峰岸と鳥羽の笑みは恐ろしさを感じるのだろう。考えてることが大抵予想を超えていくものばかりだからだろうか。二人の視線に肩をすくめたら、野上がぎゅうぎゅうと僕を強く抱きしめた。 「で、なにがあったんだ?」 「うう、前期であまった経費を全部文化祭の賞金にあてちゃったんだよ」 「文化祭の賞金?」  野上の言葉に思わず首を捻る。そしてしばらく考えてようやく僕は思い至った。文化祭の賞金――それは来客からの人気投票で一位に選ばれたクラスが受け取れるものだ。賞金と野上は言っているが、実際は現金ではなくプリペイドカードで、買い物や食事の際に使うことができる。 「そんなに高額なのか?」  もともと文化祭の賞金は生徒が目の色が変わるほどに高い金額設定になっていた。確か去年は二万円だったような気がする。現生徒会長である野上が泣きつくということは、それよりまだ高いのだろうか。  肩を落としている野上を見下ろしたら、どんよりとした空気をまとって顔を上げた。 「五万円」 「えっ!」  ぽつりと呟いた野上の言葉に思わず声を上げてしまった。ひとクラス単位ではあるが、高校生に対し二万円でも高額だと思うのに、それが倍以上となるとさすがに驚きを隠せない。 「それはちょっと高額過ぎないか」 「だよねぇ。俺もそう思う。それなのに会長が前期に承認しちゃってたのを、いまになって俺が先生たちからチクチク言われるんだよ」  しょぼんとうな垂れた野上は珍しく長いため息を吐き出した。そんな落ち込みを見せる野上の姿に、つい慰めるように頭を撫でてしまう。前任が峰岸と言うだけでも比較対象にされるときついというのに、厄介ごとまで背負うことになるとは同情の念を禁じ得ない。 「あ! なるほど、そういう目的で合同出店をやるんだな」  話を聞いているうちにようやく色んなものが繋がった。

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