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第831話 疑惑 17-2
飯田の言っていたのはこのことだったのか。ひとクラスでは高額だが、ふたクラスとなれば半額ずつの付与になる。それでも例年の賞金に比べれば金額は上がるので、一位を目指す甲斐は十分あるだろう。ということはかなり前から算段はしていたわけだ。
「なにも俺たちが必ず一位になると決まってるわけじゃないんだぜ」
「そんなこと言って上位になるだけの自信はあるんだろ」
そうでなければ峰岸が乗り気になるはずがない。いまもなに食わぬ顔で肩をすくめた峰岸は自信に満ちた顔をしている。この男はやると言ったら絶対にやりきる男だ。文化祭が行われる二日間、いまからどうなることかと想像して僕はため息をついた。
いままでにない高額の賞金だから、峰岸たちだけではなくほかの学年やクラスもかなり気合いが入っているだろう。盛り上がりはかなり期待できるが、トラブルにならなければいいなと心配にもなった。
「センセ、心配が顔に出てる。相変わらず心配性だな」
「そんなに心配しなくても大ごとにはなりませんわ」
どうしたらそんな自信が出てくるのかと、笑みを浮かべる峰岸と鳥羽に突っ込んでやりたいのはやまやまだが、二人のそれはもはや王者の貫禄というものなのだろうなと諦めた。さすがはキングとクイーンだ。あだ名も伊達じゃない。
でもこういうことに柏木がなにも言わないのは珍しい。室内に入ってから一言も喋らないその顔を盗み見たら、視線がばっちりと合った。どうやらずっとこちらを見ていたようだ。野上の斜め向かいに座っていた柏木は一瞬もの言いたげに目を細めたが、すぐに顔をそらしなにも言わずに目を伏せる。もしかして野上との仲がまだ解消されていないから気まずいとか?
「あれ? 西岡先生!」
「あ、間宮」
余計なことを考えるのはやめて鳥羽の入れてくれた珈琲を飲んでいたら、急に部屋の戸が引かれて間宮が顔を出した。
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