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第833話 疑惑 17-4

「そ、そうか。わかった、じゃあ、すぐに片付けてくる。あ、鳥羽ご馳走さま」  若干間宮の勢いに気圧された感はあるが、僕は腰かけていた椅子から立ち上がり、水玉模様のマグカップを机の上に置いた。 「じゃあ、あとで連絡するな」  期待に満ちた目でこちらを見つめる間宮にそう言うと、僕は苦笑いを浮かべながら生徒会室をあとにする。 「あんまり待たせても悪いし、さっさと片付けるか」  腕時計に視線を落とし時間を確認すると、準備室に向けて少し急ぎ足で歩いた。けれど後ろから聞こえてきた足音に気づき、僕はふと足を止めて振り返る。 「峰岸、どうしたんだ」  振り返った先にいた峰岸の姿に僕は驚き目を瞬かせてしまう。そんな僕に片頬を上げて笑った峰岸はゆっくりとこちらへ向かい歩を進めた。そして目の前に立ち止まると、まっすぐに僕を見下ろす。 「センセ、あんまりマミちゃんに気を許し過ぎるなよ」 「え?」 「俺からの忠告」  突然告げられた言葉がいまいち理解できなくて首を傾げていたら、近づいた峰岸が身を屈めて僕の頬にやんわりと口づけを落とした。頬に触れた柔らかい感触に、僕は一瞬息を止めてしまう。けれど我に返ると同時に僕は後ろへ飛び退いた。 「な、なにしてるんだよ!」 「相変わらず危機管理能力がないな」  呆れたように肩をすくめる峰岸に、僕は頬を拭いながら口を引き結んだ。そしてじろりと睨み上げれば、峰岸は楽しげに目を細めて笑う。  それにしても間宮に気を許すなとはどういう意味なんだろうか。峰岸の言う危機管理能力というものがよくわからない。けれどのんびりとした間宮にはあまり危機感を持ちづらいというのが正直なところだ。峰岸みたいにわかりやすい男なら警戒できるかもしれないが、身近にいる友人知人を疑うというのは非常に難しい。底が見えない峰岸の笑みに思わず顔をしかめてしまった。

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