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第835話 疑惑 18-2
「間宮は教師じゃなくてもほかに仕事あっただろう」
大学院は中退だけれど大学自体はいいところへ行っていたらしいので、就職のあてはもっと好条件なところがあったように思える。
「そうなんですけど、ちょうど話が来たので」
「ふーん、学校はもう慣れたか?」
三年以上も勤めているのに今更な問いかけだ。現に目の前では間宮が驚きに目を瞬かせこちらを見ている。しかし言葉にしてしまったものは安易に取り消すことができず、僕はそのまま視線を皿に向けてしまった。仕方なく不自然にならぬように箸で肉をつまむとそれを口に放り込んだ。
「西岡先生がいてくれるおかげで随分慣れましたよ」
「え?」
「もし西岡先生がいなかったら途中で逃げ出していたかもしれません」
「大げさだな」
間宮の言葉になんだかむず痒さを感じてついそっけない返事をしてしまう。けれどそんな僕を見ながら間宮は機嫌のよさげな笑みを浮かべている。しかし間宮にそんな風に思われているとは思いもよらなかった。
彼が赴任してきた年はみのりを亡くした翌年だ。その時にはもうすっかり準備室に閉じこもっている状態だったので、プライベートも仕事もあまり愛想がいいとは言えない状況だった気もするが、わからないものだ。
「大げさじゃないですよ。私は本当に西岡先生には感謝しています」
感謝をされるようなことをしてあげられていたとは思えないが、なんだかんだと職員室になじめずにいた間宮を準備室に置いていたのは確かだ。感謝とはそういうことだろうか。
「そうか」
満面の笑みを向けられてはそれ以上返す言葉も見つからなくて、僕は小さく頷きまた肉を頬張った。そういえば間宮とこんな話をするのは初めてだ。しかし改まって礼を言われるとどうしたらよいものかと戸惑ってしまう。
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