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第840話 疑惑 19-3

 そこまで嫌がらなくてもいいだろうとは思ったが、少し無遠慮に触り過ぎたかなと思い触れていた手を引いた。 「えーと、あの朝晩は走ってはいます」 「ん? あ、そうなのか。偉いな、僕は走るなんて、ここ最近したことないな」  ぽつりと呟かれた言葉に一瞬首を傾げてしまったが、運動はしているのか、という僕の言葉に応えてくれたようだ。もっと家にこもっているようなイメージを勝手に持っていた。人は見かけによらないものなんだなと、まじまじと間宮を見つめてしまう。 「なんですか?」 「うん、ちょっとお前のイメージが変わったなと思ってさ。意外とアウトドアなところもあるんだな」  少し身構える間宮に小さく声を上げて笑うと、さらに戸惑ったような顔をされる。けれどそんな顔がなんだか可愛くて思わず勢いのまま頭を撫でてしまった。柔らかいこげ茶色の髪が指のあいだでさらさらと踊る。 「西岡先生?」 「ああ、悪い。なんか柔らかくて猫みたいだなと思って」  あまりの触り心地のよさに猫をあやすみたいに髪を撫でていた。さらさらとしているのに、しっとりもしている柔らかい髪の毛だ。毛足の長い長毛種を撫でているような錯覚に陥る。動物を撫でている時に出るアルファ波を感じて、思わず無心で髪を撫でてしまう。 「猫、可愛いよな」 「えーと、私は猫ではないのですが」 「あ、悪い」  いつまでも髪を撫でていたら、さすがに我慢ならなくなったのか間宮に手首を掴まれてしまった。その感触に驚いて髪から手を離したけれど、手首をぎゅっと強く握られる。思いのほか力強いその手を見つめるが、こちらの視線には気づいていないようだ。 「間宮?」 「あ、すみません」  じっと僕の腕を見つめていた間宮が、呼びかけた声に我に返ったように顔を上げた。そんな様子に僕が首を傾げると、掴まれていた手も離される。

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