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第841話 疑惑 19-4
「やっぱり、まだまだ細いですね」
「うーん、少し運動したほうがいいかな? 腕立て伏せとか?」
ここまで細いと言われるとなんだか自分が頼りなく思えてしまう。間宮の隣に立ち腕を並べたら、手首はひと回りくらい細いようにも見えた。もともと骨からして細いので仕方ないといえば仕方ないのだが、ちょっと不満でもある。男らしいという要素が自分に少ないのは気のせいか?
「すみません、あまり気にしなくても大丈夫ですよ」
「うん、まあ気にする」
「えっ! 本当にすみません。気にしないでください!」
慌てふためく間宮の様子につい吹き出すように笑ってしまう。ちょっとした仕返しのつもりで言っただけなのに、こんなにあたふたするとは思わなかった。素直な反応が面白い。
「もしかして、私のことからかってますか?」
「悪い悪い」
「ひどいですよ」
ようやく僕の意図に気がついたのか、間宮は口を引き結びほんの少し拗ねたような表情を浮かべる。その顔を見て僕はまた声を上げて笑ってしまった。
やはり間宮には危機感など持ちようがない。僕よりもずっとお人好しで、ちょっと気が弱くて、けれど頼りにならないかと言えばそんなこともなく、気が利く優しい後輩だ。
「そんな顔するなよ。今度またご飯連れていってやるからさ」
「え! あ、はい!」
「なんだよお前、現金なやつだな。もう機嫌直ったのか?」
「西岡先生とご飯食べるの好きです」
「ふぅん、そっか」
まっすぐで可愛い後輩のどこを疑ったらいいのだろう。あまり器用ではないから僕は人の裏と表を見極めるほどの目は持っていない。けれどできれば自分で触れて知った相手を信じたい。人を疑うのは苦手だ。人が好すぎると呆れられることもあるが、それでも笑いかけてくれるその笑顔は疑いたくはないのだ。
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