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第844話 疑惑 20-3

「でもなんだか、そんなに大ごとな感じがしなくて」 「馬鹿、お前ちょっと自分のことちゃんと考えろよ。彼氏だって気が気じゃないだろ」 「う、気をつける」  藤堂のことを持ち出されると言葉に詰まる。事故や怪我の原因を知った時はひどく辛そうだったし、少し思い詰めるような雰囲気があったのも確かだ。でも正直事故についてはいまだに、偶然に巻き込まれただけなんじゃないかなんて思ってしまう。狙われていることも視野に入れなくてはいけないというのはわかっているのだが。あんなにタイミングよく行動に起こせるものなのかと疑ってしまうのだ。 「お前のその自分に無関心なところ、気をつけろ」 「ん、肝に銘じておく」 「そうしろ、普段よりもずっと気をつけろよ」  疑念は晴れないけれど、楽観的でいい加減なところ、本当に気をつけないと周りに迷惑がかかる。いまは奇妙な出来事がなにもないが、この先もないとは限らない。原因がわからないいまは、なにもないとはいえ気を抜くのは駄目だ。忘れた頃を見計らっている可能性だってある。どうしてこう僕は思慮深さがないのだろう。何度も同じことを繰り返しているのに、ちっとも成長が見られない。 「最近は彼氏とはうまくいってんのか?」 「え? あー、うん。なにかと連絡もくれるし、必ず週末も来てくれるし」 「それめちゃくちゃ心配されてんだろ」 「あ、そうなのかな」  そういえば前よりメールの回数も多いし、電話もよくかかってくるようになった。それに浮かれてばかりで、深くその意味を考えていなかった気がする。僕は無関心というか脳天気なのではないだろうか。自分のことながら呆れてしまう。 「もうちょっと自分を大事にしろよ。でないと彼氏が可哀想だろ」 「う、うん。悪い」  僕自身より自分のことのように心配してくれる藤堂。どれほど彼に心労をかけているのだろうと考えれば、それはひどく大きな負担なように思えてくる。

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