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第849話 疑惑 21-4

 思ったよりも早い時間に来たなと思いながら、待ち合わせしやすい場所を伝えるべく返信をする。そして残りの教室を足早に見て回り、僕は明良が待っているだろう場所へ向かうために階段に足を向けた。  階下から聞こえてくる賑やかな話し声、それにその時の僕はすっかり気を取られていた。だから自分の背後に人が立っているなどまったく予想もしていなかった。 「ん?」  なにかを振り上げたような自分を覆う影で、僕はようやくその気配に気がついた。とっさに振り返るが、廊下の窓から差し込む光と人陰で相手の顔は見えなかった。 「西岡先生!」 「危ないっ」  振り下ろされた棒状のものが僕の額を強く打った。鈍い痛みと共にめまいがしてよろめいた僕の身体は後ろへと傾いた。そのまま階段を転がり落ちることを想像して身を固めたが、階下から走り寄ってきた生徒たちに僕の身体は受け止められる。 「おい、お前」 「あ、ちくしょう待て」  階段の上にいる犯人はしばらくその場に立ち尽くしていたが、階下から来た生徒が声を上げると、弾かれるようにして走り出した。そのあとを僕を支えていた一人が追いかけた。 「西岡先生、大丈夫?」 「ああ、うん。なんとか」  ズキズキと痛む頭を抑えながら、僕は去っていった犯人のことを考えていた。顔ははっきりとはうかがえなかった。けれど――その人物は男子の制服を着ていたのだ。だがいくら考えても生徒に殴られるようなことをした覚えはない。それ以外でなぜと考えれば、電車のホームや歩道橋のことを思い出す。しかし思い出しはしたが、まさかという意識が強かった。薄れていた記憶を思い起こしてみても、歩道橋で見た人陰は先ほどの去っていった制服の子と同一人物ではない気がした。 「わけがわからない」  まったく一貫性を感じさせない出来事に、僕の頭はさらに痛みが増した。

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