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第850話 疑惑 22-1

 走り去った制服の犯人は混雑した人波に紛れて行方がわからなくなったようだ。あの場にしばらく立ち尽くしていた様子といい、やはりうちの学校の生徒だったのだろうかという疑念が浮かぶ。けれどなんのためにあんなことをしたのだろう。ここ最近を思い出してみても、生徒に恨みを買うようなことをした覚えはない。それともやはりほかの二件の出来事となにか関連性はあるのだろうか。  しかし悩んでみるものの、いくら考えても僕の頭では答えを導き出せなかった。 「保健室の第一号が先生だなんて」 「すみません」  額を打った棒状のものは、途中で投げ捨てられていたらしい。芯になっているものは硬い鉄パイプのようなもので、段ボールらしきものがそれに巻いてあったようだ。そのままパイプで殴られていたら流血ものだったかもしれないが、段ボールが緩衝材の役割を果たしてくれたので額は痛みこそあれ、幸いたんこぶ程度で済んだ。  擦り傷が少しあったので念のため保健室で消毒をしてもらっているところだ。 「はい、もう大丈夫ですよ。あまりぼんやりと歩かないようにしてくださいね」  少し呆れた顔で笑った医務の先生に、僕は何度目かもわからないくらい頭を下げた。額の傷はよそ見をしていてぶつかったということにしてある。そのまま疑うことなく信じられてしまうのもなんとなく恥ずかしいのだが、この際は仕方がない。 「西岡先生!」 「ん?」  治療も終わりそろそろこの場をあとにしようと立ち上がったら、急に保健室の戸が勢いよく開かれた。思わず肩が跳ねるほど大きな音だったので、僕と医務の先生は驚きに目を丸くしてしまう。けれどそんな僕たちの視線に気づいていないのか、保健室にやってきた間宮は青い顔をして僕のほうへ歩み寄ってくる。 「どうした血相変えて」 「ど、どうしたって、西岡先生が怪我したと聞いて」

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