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第852話 疑惑 22-3

 先ほどの出来事に気を取られて明良のことを忘れていた。なんだかんだと随分時間が過ぎてしまった。目を瞬かせている間宮に両手を合わせると、僕は少し足を早めて廊下を抜ける。そして外に出るべく職員玄関へ急いだ。  待ち合わせの場所は屋外投票所のテントの近くだ。そこは立ち並ぶ出店の白いテントとは違い、オレンジ色のテントなのですぐ目に付く。肝心の明良は視線を巡らすと、その姿はすぐに見つけられた。 「明良」 「よお、遅かったな」 「西岡先生、遅ーい! 明良さん二十分くらい待ってたよ」  呼びかけた声にのんびりと振り返った明良。そしてそれと共に彼の傍にいた生徒たちがこぞって振り返った。予想通り女子生徒に囲まれたかと思ったが、中には男子生徒も混じっていてなんだかみんな和気あいあいとしている。  そういえば一見するときつそうに見えるけれど、明良は昔から人を惹きつけるタイプだった。学生時代からこの男が一人でぽつんとしているところは見たことがない。 「待ちぼうけに付き合わせて悪かったな」 「いいよー! 楽しかった」  ひらひらと明良が手を振れば、生徒たちはみんな満面の笑みを浮かべてその場を離れていった。 「なんの話をしてたんだ?」 「ああ、お前の話。なんか変わったことねぇかなと思ってな」 「あ、……えっと、それなんだけどな」  さっきまさにその変わったことに遭遇していた僕はつい口ごもってしまう。無意識に鈍い痛みを持つ額に触れたら、すぐさま明良の手が伸びてきて僕の前髪をかきあげた。 「お前これ、どうしたんだ」 「ああ、うーん、実はさっき殴られて」  擦り傷ができ、腫れて赤くなっている額を見つめ、眉をひそめる明良の表情に僕の声は一段と小さくなる。長いため息を吐き出されれば申し訳なさでいっぱいになった。

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