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第853話 疑惑 22-4
「気をつけろって言ったのに」
「悪い、学校の中だったし、意識してなかった」
「とりあえず、ちょっと詳しく話を聞かせろ」
僕の肩に腕を回すと、明良はそれを強引に引き寄せた。間近に迫った顔に少しばかり驚いてしまったが、頭を優しく撫でられて肩の力が抜ける。
人に聞かれるのは避けたい話なので、賑やかな校庭を離れてひと気の少ない旧校舎がある場所まで移動した。途中で買った飲み物を片手に階段のふちに二人で腰かけると、ふいにまた頭を撫でられた。
くしゃくしゃと髪を乱すその手は乱雑だけれど優しかった。言葉で慰めてはこないけれど、僕の心配をしてくれているのだろう。
「制服か」
「うん、考えてみたんだけど三件とも人が違う気がするんだよな」
一件目と先ほどの三件目は犯人に躊躇いがあった。しかし二件目の歩道橋は僕を突き飛ばしたその手に迷いがなかったような気がする。一件目は姿を見ていないのでなんとも言えないが、二件目と三件目は明らかに人が違った。三件目の学生はそれほど身体が大きい子ではないように見えたし、二件目はもっと身体の大きい大人だったと思う。
「まあ、でも全部が別人でも大して驚きはないけどな。いまどき金で動く人間は珍しくないからな」
「金、か。わざわざそんなことする意味がわからない」
「そうだなぁ、ただのストーカーにしちゃ手が込み過ぎてるしなぁ」
やはり藤堂の母親絡みのことなのだろうか。だとすると写真は僕のことを知っているという証拠で、事故はなにかを示唆しているのか。そもそも思い返せば僕は運がよかっただけで、先の二件は周りに助けられなければ大怪我もしくは命に関わっていたかもしれない。示唆ではなくそれが「排除」なのだとしたら――そう考えると血の気が引いていく思いがした。
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