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第856話 疑惑 23-3

「あーもう、手加減しろよな」  幸いこぼれた飲み物をひっ被るはめにはならなかったが、階段がアイスコーヒーとコーラでびしょびしょだ。あとで水で流しておかなければと明良を振り返ったら、いつの間にか携帯電話をいじっていた。 「どうした?」 「あ、うちのが一日早く仕事から戻ってくるらしいから、帰るわ」  先ほどまでの雰囲気から一変した明良の横顔は、携帯電話に夢中になっていて実に幸せそうで楽しげだ。いまの彼氏は仕事が忙しいようで傍を離れることも多いらしい。付き合う相手には比較的べったりな明良からみればそれはだいぶ物足りないのだろう。 「そうなのか、じゃあ駅にでも迎えに行ってあげたほうがいいんじゃないか?」 「んー、そうする」  すでに相手のことで頭がいっぱいなのか、生返事が返ってくる。今回の相手は随分といい感じみたいだし、長続きしたらいいなと微笑ましくなった。 「あ、このあともお前は油断しないでおけよ。さっきの視線も気になるし、殴った犯人もわかってねぇし。あと彼氏のほうにもまた確認とっておけ」 「ああ、わかった」 「心配ごとあったら聞いてやるからまた連絡よこせよ」 「うん」  念押しするように僕の頭を撫でる明良に笑みを浮かべて返したら、タイミングよく首から提げていた携帯電話が鳴り出した。甲高い電子音を響かせるそれを慌てて開いて通話ボタンを押すと、のんびりとした間宮の声が聞こえてくる。 「あ、西岡先生。休憩の件なんですけど」 「あーもうそんな時間か。休憩、僕は後回しでいいぞ。ちょっと持ち場を離れていた時間が長いし、これから巡回に戻る」  腕時計に視線を落としたら十二時を過ぎていた。保健室に行ったり明良と話していたりで随分と時間が経っていたようだ。

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